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金持ちと貧乏は富貴貧賤という言葉で表わしますが、富貴貧賤にもいろいろな内容があります。 @ ただたんに富だけである人、ようするに金持ちだけという人 A ただたんに貴だけである人、カネはないが人格が高潔な人 B ただたんに貧だけである人、つねに貧乏でどうしようもないタイプ C ただたんに賤だけである人、カネがなく、そのうえ人格も卑しい人 の4種に加え、 D 富貴とも全きである人、人格は高いし金持ちでもある人 E 富ではあるが賤でもある人、たとえばカネに不自由しないが人格は卑しい F 貴ではあるが貧である人、人格はあるが、いつも貧乏が身についている人 G 貧賤ともに身にまとわりついて離れない人 の8種に大別できます。 人の世はともすれば富と賤が親戚になり、貴と貧が背中合わせになりがちで、このように見ると富だけの人、貧だけの人、なんでもかんでも人格の卑しい人のなんと多いことでしょうか。 孔子の言葉を借りますと、 ★ もともとこの世で良い仕事をすると逆に報われないようになっている』・・・孔子 悪貨は良貨を駆逐するとのたとえのように、この世では良い本が必ずしもベストセラーになるとはかぎらないことからしても、良い仕事をする人間が金持ちであるとはいえません。つまり、いま貧乏しているのは恥ではないといえますので、大いに胸を張っていいわけです。 ★ 『世の人の 心ぞ打出の 小槌なる 福を出そうと 貧を出そうと』・・・古歌 人間の心はちょうど打出の小槌のようなものであります。福を出して幸せな生活をするのも、貧を出して苦労するのもみな、それぞれが持っている心の用い方しだいである・・・。 子供のころ、打出の小槌の絵が描いてある額が柱に掛けてあった思い出があります。 「ああ、これがあれば毎日の小遣いに不自由しないのになあ」と、幼心にいくら憧れたかしれません。なにしろ打出の小槌は振れば振るほど、好きなだけジャラジャラと小判が出るといわれるのですから。 しかし、そのような便利なものが、この広い世界のどこを探してもあるわけがなく、ともすれば安きに流されがちな自分の心では貧が出てくる可能性が高いのではないでしょうか。だとすると、なんとも皮肉なことではないでしょうか。 人間は富貴貧賤の四文字の範囲から逃れようと、いくらもがいても逃れられることはありません。 そして情けないことには怒ったり哀しんだりするのだけは、すぐできるのです。なかでも怒ることほど簡単にできるものはありません。とにかく一朝の怒りに我を忘れて一生を棒に振る人がいくらでもいるのですから。 人間はとにかく安逸に流されやすい感情の動物ですから、ともすれば初めのうちは懐が豊かに富んでいても、後にはいつしか貧の方向にいく可能性があり、貧乏であればなおさら、その貧乏がいつまでも続く傾向がないとはいえません。なにしろ昔から、「金持ちは三代続かず、貧乏うれしやいつまでも」といわれるくらいです。 ★ それでは、これらの貧賤を遠のけ富貴を手に入れる方策について @ ひとつには、喜怒哀楽の情のうち、怒と哀の感情をむき出しにすることだけは慎む必要があるでしょう。これは必ずと言っていいほど人が離れカネやモノが集まらない結果になります。 A 二つには、気力や精神力と素質と才能を培うのに努めることです。これは気力や精神力が他人に劣ったり、素質や才能がない者は、どうしても社会の一線で活躍することができないからです。 B 三つには、これからの世の中は何よりもまず知識が優先する社会になるために、とにかく広く深く知識を身につけ志を高く持ち勉学に勤しむことが大切です。このように怠りなく吉のほうに打出の小槌を振るなら、いかなる成功富栄もモノにできないことはありません。 ★ 『名を歓ぶものは必ず怨み多し』・・・韓詩外伝 自分の名声をあげようとやっきになればなるほど、どうしても他人との競争に勝たなければならないし、他人に勝てば相対的に敵を作ることにつながり、ときには不道徳な行為に走らなければならないことになるので、人の怨みをかう結果になることが多い・・・。 ★ 『存亡禍福はみな己のみ、天災地妖(よう)も加うるあたわず』・・・説苑 人生の栄枯盛衰は各人の日頃の言動にあるもので、天が勝手に手心を加えたり、その家に祟りがあるとか先祖の悪霊がついているというようなことではない・・・。 昔、維新の剣豪との誉れが高かった島田虎之助は、 『心、正からざれば剣、また正しからず、剣を学ばんと欲するものは、まず心を学べ』 と大喝して相手を打ち据えた故事がありますが、全くその通りで、処世の何ごとも、その中心である心を養うことこそ、何よりも大事であると言わざるを得ません。
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