| 古歌に学ぶ生き方 |
| 1 |
世の中を 安々渡れ 古人(ふるひと)の
聖(ひじり)の文を 道のしるべに |
| 2 |
世は海よ 身は浮き船よ 心をば
舵とぞ思い 心して漕げ |
| 3 |
夫には 従うものと 知りながら
夜のみとこそ 思いしぞ憂(う)き |
| 4 |
女房は 愛するものと 知りながら
昼は粗末に せしぞ愚かや |
| 5 |
芋を見よ 子に栄えよと 親痩せて
えぐうなったり 甘うなったり |
| 6 |
苦と楽の 花咲く木々を よく見れば
心の植えし 実の生えしなり |
| 7 |
井を掘りて あと一尺で 出る水を
掘らずに出ずと 言う人ぞ憂き |
| 8 |
世の中は 月にむらくも 花に風
思うにわかれ 思わぬに逢う |
| 9 |
火の車 作る大工は おらねども
己(おの)が作りて 己が乗り行く |
| 10 |
すこしずつ 盃に入る 酒なれど
家田畑も ついに傾く |
| 11 |
山水も 木の根岩の根 くぐらずば
大海原に いかに出ずべき |
| 12 |
なにごとも 我をあやまり したがいて
負けてさえいりゃ この身安心 |
| 13 |
生業に はげむる道の 奥にこそ
黄金花咲く 道はありけり |
| 14 |
教えぬに 決して上見ぬ 藤の花
ただ足ることを 知りて咲くらし |
| 15 |
笑い声 朝夕絶えぬ 家をこそ
玉の台うてな)と いうべかりけり |
| 16 |
小石をも 避けてソロソロ はびこりて
松は岩をも 砕くなりけり |
| 17 |
橋なくて たとえ天に のぼるとも
俺が俺がは 任されもせず |
| 18 |
古(いにしえ)は 心のままに 従いぬ
心よ今は 我に従え |
| 19 |
心より 心を得んと 心得て
心に迷う 心なるかな |
| 20 |
心をば 心の仇(あだ)と 心得て
心のなきを 心とはせよ |
| 21 |
心こそ 心迷わす 心かな
心に心 心せよ |
| 22 |
その道に 入らんと思う 心こそ
わが身ながらの 師匠なりけり |
| 23 |
見る人も 見られる人も うたた寝の
夢まぼろしの 浮世ならずや |
| 24 |
夢の世を 夢とも知らず 夢を見る
覚めたるも夢 夢もまた夢 |
| 25 |
一生を 夢とも知らず 覚めぎわに
夢と知りゆく 夢の世の中 |
| 26 |
かいなしや きょうはきのうの あやまりと
思いしりても あらためぬ身は |
| 27 |
何一つ とどまるものなき 世の中に
ただ苦しみを 止めて苦しむ |
| 28 |
惜しめども いつかさかりは 過ぎにけり
とめくるものは 老いにぞありける |
| 29 |
世の中の 風に心を さわがすな
学びの窓に こもるわらべは |
| 30 |
堪忍の 袋をおのが 首にかけ
破れたら縫え 破れたら縫え |
| 31 |
見ればただ なんの苦もなき 水鳥の
足はせわしき 浮き世かな |
| 32 |
かばかりの ことは浮き世の ならいぞと
許す心の 果てぞ悲しき |
| 33 |
かりそめの 言の葉ぐさに 風立ちて
露のこの身の おきどころなし |
| 34 |
色と酒 利欲におのが 目がくらみ
うかうかはまる 借金の淵 |
| 35 |
キッパリと 埒(らち)のあきたる 世の中に
埒のあかぬは 迷いなりけり |
| 36 |
重くとも 我が荷は人に ゆずるまじ
になうにつけて 荷は軽くなる |
| 37 |
いくたびも 思いさだめて 変わるらむ
頼むまじきは 我が心かな |
| 38 |
善悪の 人の見る目は ありながら
我が身のうえは ウバタマの闇 |
| 39 |
心から 流れる水を せき止めて
己と淵に 身をしずめけり |
| 40 |
世の中の 人は知らねど 科(とが)あれば
我が身を責める 我が心かな |
| 41 |
人知らぬ 心に恥じよ 恥じてこそ
ついには恥じなき 身にはなるらめ |
| 42 |
ありがたし 嬉しと生業 励みなば
富みもたらいで 名ぞ顕わるる |
| 43 |
善悪の うつる鏡の 影法師(かげぼうし)
よくよく見れば 我が心なり |
| 44 |
コメ蒔いて コメが生ゆれば 善には善
悪には悪が むくゆるとしれ |
| 45 |
世の中を 恥じぬ人こそ 恥となれ
恥じる人には 恥ぞすくなき |
| 46 |
雨露に 打たるればこそ 楓葉(もみじば)の
錦を飾る 秋はありけり |
| 47 |
世の中を ただいたずらに 渡りきて
老いてののちの いまは後悔 |
| 48 |
賢さの おのが心に だまされて
キツネはワナに かかるなりけり |
| 49 |
我がためを なすは我が身の ためならず
人のためこそ 我がためとなれ |
| 50 |
千枝(ちえ)もも枝 茂れる松も そのもとは
ただ双葉(ふたば)より 生えそめしなり |
| 51 |
こと足れば 足るにもなれて なにくれと
足るがなかにも なお嘆くかな |
| 52 |
山川の 末に流れる 栃殻(とちから)も
身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ |
| 53 |
道のべの 草にも花は 咲くものを
人のみ徒(あだ)には 生まれやはする |
| 54 |
身を思う 心ぞ身をば 苦しむる
身を思わねば 身こそ安けれ |
| 55 |
いまごろに なに驚かん 神武より
二千年来 暮れていく年 |
| 56 |
色黒く 顔の悪しきは 生まれつき
直せば直る 心直せよ |
| 57 |
知るとのみ 思い知りても なによりも
知られぬものは 己なりけり |
| 58 |
雨そそぐ 軒の下石 くぼみけり
かたき枝とて 思い捨てめや |
| 59 |
カネカネと 騒ぐうちにも 年は暮れ
我が身は墓に 入り相(あい)の鉦(かね) |
| 60 |
もちゃつかぬ 家は餅つく 年の暮れ
もちゃつく家は 餅つかぬなり |
| 61 |
世の中は 流れ渡しの 船なれや
下るぞ棹は さしよかりけり |
| 62 |
人多き 人の中にも 人ぞなし
人となせ人 人となれ人 |
| 63 |
手や足の 汚れはつねに 洗えども
心の垢を 洗う人なし |
| 64 |
つくづくと 思えば悲し いつまでか
身につかわるる 心ならずや |
| 65 |
世の中は ウサギとカメの かけくらべ
早いからこそ 遅くなるらめ |
| 66 |
すさぶ世に 思いだせかし 古人(ふるひと)の
聖(ひじり)の歌を 生きるよすがに |
| 67 |
我にある 宝を知らぬ 愚かさに
世界のものを 欲しがりぞする |
| 68 |
世の中は なにもいわずに いよスダレ
その善悪は 人に見え透く |
| 69 |
苦しみて のちに楽こそ 知らるなれ
苦労知らずの 楽は味なし |
| 70 |
有りという 人に地獄は なかりけり
無しと思える 人にこそあれ |
| 71 |
金ほしや 地獄の沙汰も 金しだい
さりとて金では 行かれぬ極楽の道 |
| 72 |
狐より こわきは色と 酒とカネ
大方これに 誑(たぶ)らかされぬはなし |
| 73 |
年を経て 浮き世の橋を 見返れば
さても危うく 渡りけるかな |
| 74 |
うかうかと 徒に月日を 送る人
地獄ならでは 行きどころなし |
| 75 |
田や山に 黄金はいくらも 埋めてある
鍬で掘り出せ 鎌で刈り取れ |
| 76 |
思うまま ならで逆目に 立つ板は
おのがカンナに 錆があるゆえ |
| 77 |
立ち寄りて しばしなりとも 習わばや
親に仕うる 人の心を |
| 78 |
心よく 人ごと言わず 慇懃に
慈悲ある人に 遠慮ある人 |
| 79 |
山人の いつしかつけし 斧のあと
松はそれより 雪折れぞする |
| 80 |
アイアイの 返事ひとつで 世の中も
人も我が身も まるくおさまる |
| 81 |
世の中は 虎狼も ものならず
人の口こそ なお勝りけり |
| 82 |
世の中を 四尺九寸に なしにけり
五尺のからだ おきどころなし |
| 83 |
足元の 道を忘れて 荒岩づたい
谷間奥山 ふみまよいつつ |
| 84 |
霜を経て 匂わざりせば 百花(ももはな)の
上には立たじ 白菊の花 |
| 85 |
わが心 鏡に映る ものなれば
さこそ姿の 醜(みに)くかるらめ |
| 86 |
アザミ草 その身の針を 知らずして
花と思いし 今のいままで |
| 87 |
世の中に 蒔かずに生えし ためしな し
蒔きてぞついに 運や開けん |
| 88 |
春の夜の 闇はあやなし 梅の花
色こそみえね 香りやはする |
| 89 |
愚かなる 恣意の炎を 噴きたてて
我と迎うる 火の車かな |
| 90 |
気もつかず 目には見えねど いつのまにか
埃(ほこり)たまるは 袂(たもと)なりけり |
| 91 |
池水に はじめのうちは 降り消えて
凍るかたより 積もる白雪 |
| 92 |
形こそ 深山(みやま)がくれの 朽(くちき)なり
心は花に なさばならん |
| 93 |
屁理屈を ゆうていっぱし 我ひとり
理屈のように 思う世の中 |
| 94 |
悪しきとて ただひと筋に 棄つるなよ
渋柿を見よ 甘柿となる |
| 95 |
武士(もののふ)の 矢橋(やばせ)の渡し 近くとも
急がば回れ 瀬田の唐橋 |
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